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ヤマトの章 17 僕が今、願う事 4

last update Last Updated: 2025-06-10 14:30:06

 結局最後まで祐樹は僕を偽物だと信じて疑わず、話は平行線で終わってしまった。

最後に祐樹は僕と里中さんに名刺を渡して、今度店に飲みに来いと誘ってきた。

でも悪いけど行く気は全く無い。お酒なんか飲んだりしたらどこでボロが出るか分かったものじゃないし、何より千尋を夜一人きりになんかしておけるわけないじゃないか。でも里中さんは行く気満々だ。お酒好きそうだものね。

店を出る祐樹を見送ると僕は里中さんと二人きりになった。これからどうする? と尋ねられたけど、行先は決まっている。里中さんには何処かで時間をつぶして帰ると言って店を出た。

祐樹と会ったことで病院で眠っている渚に何か変化が無いか? それだけが気がかりだった。

****

 電車とバスを乗り継ぎ、国立病院へ向かうバスの中。不安でたまらなかった。

今、ここで僕が消えてしまうことがおきませんように……。

病棟に向かう前に帽子とマフラーで顔を隠した。辺りに人がいないことを確認すると5階の階のボタンを押す。そしてドアが開くと素早く中に乗り込む……気が付いた。

あそこにいたのは里中さんでは無いだろうか?

もしかすると後を付けられていたのかもしれない。彼には感謝しているけど、僕の秘密を知られる訳にはいかなかった。

5階で止まるエレベーター。降りると病室には行かずに非常階段を使って病院の外へと逃げた。どうか里中さんに気が付かれませんように……。

それだけを祈りながら僕は彼が病院から出てくるまで駐車場の陰に身を隠して見守っていた。それから約30分も経った頃、ようやく里中さんが病院の正面玄関に姿を現した。

心なしか足元がおぼつかない気がする。まさか渚が入院している部屋を見つけてしまったのだろうか?

すごく気にはなったけど、僕が今すべき事ことは病室に行って渚の様子を見てくることだ。

僕は再び病室へと向かった――

****

 結局渚はいつもと変わらず眠り続けていたので安心して部屋を出ようとした時。

右手首がギリギリと痛み出して、スーッっと消えかけていく。まただ、いつもの発作が起こった。必死で痛みに耐えながら渚の方を振り向いたとき。

「!」

僕の右腕が消えるのと比例するように渚の右腕がピクリと動いている。

そうか……やっぱり。

僕は納得した。僕の体の一部が損なわれると、その部分機能が渚に戻る。もう本当に時間が無い……。僕は本能で感じた。

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